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05

廃れゆく部屋

皆さん、廃でお会いしましょう


In 05 2020

Category: アンティーク   Tags: ---

唐銅の建水





kensui1.jpg



そのお店に通い始めたのはもう10年以上前のことになる。

広島県府中市元町に「豊彩洞」という美術画廊があった。




広さ8坪ほどの店内の壁には洋画、日本画、掛け軸などが所狭しと掛けられていて

お店の中央には漆器、陶器、ガラスなどの新古美術品がこれまた足の踏み場もないほど積み上げられていた。

開業当時は絵画専門の画廊であったが、のちに骨董品なども扱う店になったようだ。

店主はその頃70歳くらいの好々爺で品のある奥様と一緒にお店を切り盛りしていた。

気さくな店主の性格に甘えて休日や会社の帰り道によく寄ったものだった。

そんな豊彩洞がほんの1~2年前にお店を閉めたことを知り、この記事を書こうと思い立った。



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これは「建水(けんすい)」というもので、10年前に豊彩洞で購入したものだ。

建水は茶席で茶碗をすすいだり余った湯水を捨てるための器で、陶製よりも唐銅製のものが多いようだ。

大きさは大人の手のひらほど。

時代はたしか昭和初期頃のものだったと思う。

建水の中では比較的浅めのもので打ち出し跡が見える。

銅製が多いのは銅に殺菌作用があるからだろうか。

初めて建水を見たときは何に使うものか判らず、店主にアレコレ教えてもらったことを思い出す。

買ってはみたものの茶道に縁のない僕はこれを玄関の靴棚の上に置き、「鍵入れ」にした。

家族が帰ると必ず鍵を建水に入れるので「カラ-ン」とややこもった高い音がして帰宅の合図となる。

それがもう10年続き、この建水は我が家での場所を得た。




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それからも御飯茶碗や漆塗りの御重、小引き出しなど様々なものを世話してもらった。

店主は熱心に売り込むわけでもなく、いつもただ黒革のソファーに座って僕と世間話をしているだけだった。

その安穏とした雰囲気がなんとも居心地が良くついつい長居をしてしまうのだった。

一度店主が僕の仕事先に電話をしてきたことがあった。

事務員から「ホウサイドウという方から電話です。」と言われすぐにはピンと来なかったが

「良い蕎麦猪口が入ったらから、帰りに寄りんさい」と電話口から聞こえた時にはさすがに苦笑いする他なかった。


建水のことよりも「豊彩洞」とその店主のことばかりになってしまった。

かつて足しげく通ったあの店に「貸店舗」の看板が否が応でも寂寥感を誘う。

ここ2~3年、地域の役員が忙しくなったり興味が古い置時計などに移ったせいもあり不義理をしていた。

いつか買うと店主に約束した「うさぎの親子」が描かれた掛け軸も結局買わないまま。

今回この唐銅の建水をあらためて手に取り眺めながら、あの店で流れた時間を思う。

そしてただ人と物との良い巡り合わせに感謝した。






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05 12 ,2020 Edit


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